愛シテアゲル


 ボンネットの上、逃げられないよう両腕に囲われて、怖い顔がじりじりと小鳥に迫ってくる。小鳥も逃げられないけれど、両手を後ろについて背を反ってしまう。

 最後。小鳥の身体がボンネットに倒れそうになったその時――。倒れないよう翔が背を抱きとめてくれる。

「生意気なんだよ。愛シテアゲルなんて、十年早い」

 ごめんなさい。うん、生意気だったね。そう謝ろうとしたら、そのお喋りな口を止められるように、強くふさがれ、くちびるを愛されていた。

「しょ、う……?」

 と呟くのがやっと。彼の唇が激しく、何度も息継ぎをしてはいつまでも小鳥の口元を愛してくれる。珈琲の匂いが残る彼の息が、熱くふりかかる。

 息苦しくて、でも、とろけそうで気が遠くなりそう。
 どうしたんだろう。いままでは胸がドキドキだったのに、もう違う。
 いまはキスをされると身体の奥がつきんつきん痛くなって、熱いものが滲みだす感覚に変わってしまった……。

 その甘い疼きにとかされ、小鳥はただ、彼の肩越しに見えた月をぼんやりとみつめるだけに……。

「ずっと小鳥のその真っ直ぐさに支えてもらってばかりだった。だから、もう小鳥に負けない。まずは俺から、おまえを愛シテアゲル――」

 負けない? いつからそんな勝つとか負けるに? それに、俺が十年、愛シテアゲル??

 自分から溢れた気持ちを、彼がもっともっと熱くして投げ返してきた。



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