愛シテアゲル


 それでいいのかと小鳥は納得できなかったが、武智専務が小鳥を宥めるように言った。
『卑怯な男ほど謝ったりしないよ。逃げて知らぬふりをする。だからあいつは卑怯認定。またあのツラを見たら、俺も今度は手加減しない』

 秀才眼鏡のおじさんだけれど、このおじさんも元ヤン。密かに隠している荒い気性がふいに表に出てしまうほど、武ちゃんも怒っていた。

 そんなどうしようもない大人がいっぱいいる。小鳥は初めてそれを知る。

 だけどそれから幾分か日が経った頃、翔が知り合い伝で『瀬戸田、会社を辞めたらしい』と聞いてきた。
 その時はふたりで驚いた。それは反省して辞めたのか、または、こんな屈辱的な土地にはもういたくないと思って自ら去っていったのか。それももうわからない。

 翔の親友である長嶋さんからも連絡があったらしく『あいつ会社でも相当嫌われていたみたいだぞ』と――。そんな噂を聞きつけたとのこと。

 もうあの男はこの街には戻ってこないだろう。親友がそう言っていたと翔が教えてくれた。
 

 もう忌まわしいことは忘れよう。
 いつまでも卑怯な男にひきずられることはない。
 もう終わったんだ。いいな。
 


 英児父の終息宣言にて、龍星轟はもとの日常を取り戻していた。



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