愛シテアゲル
「小鳥、準備できたのか」
彼が小鳥の部屋のドアを開ける。
開け放してある窓から、海辺の風が吹き込んでくる。
黒いステッチで縁取られている白いワイシャツに、シックな小紋柄のブルーネクタイを締めた彼が入ってくる。
「ねえねえ、翔。ジャケットは白がいいかな、生成がいいかな」
おでかけの身なりを整えた小鳥を見て、あの涼やかな眼差しでじっと彼女を上から下まで眺めている。
「ねえ。どっちが、いいかな」
白と生成のジャケットを交互に胸元に当てているのに、だんだんと彼が怒った顔になっていく。
「小鳥」
小脇に抱えていた黒いジャケットを彼がひとまず、小鳥の勉強机に置いた。
「え、駄目だったかな。このワンピ。シックで飾り気がないからジャケットに合わせやすいと思ったんだけど」
黒いスラックスの足が重くこちらに近づいてくる。それにあの一重のクールな目元がきりりと鋭く小鳥を射ぬいて――。
クローゼットの扉を背に小鳥があとずさると、彼の長い両腕がバンとついて怖い顔で見下ろしている。
またお得意の、ヒナちゃんを囲いに捕まえて勝ち誇った笑みを見せている。
こんな時の彼には要注意。何をされるかわからない。
「あ、あの、翔……にぃ?」
いまでも彼が大人の顔で威圧すると思わず『おにいちゃん』と漏らしてしまう。
「なんで俺はこんな服を選んでしまったんだろう」
「え、どういうこと?」
するとカシュクールを合わせている大事なリボンを彼がしゅるしゅる解いてしまった。