愛シテアゲル


 聖児は、大人の出で立ちをしている翔と姉を見て、ちょっと焦った顔に。
 そんな彼氏を知ったスミレが申し訳なさそうに言った。

「聖児君、また今度にしよう。ほら、お姉さん。今日は大事な話があるみたいだし」

 スミレも今春卒業をして念願の保育士になり、大学系列の私立幼稚園の教員になったばかり。
 彼女にも『近いうちに、両親に結婚前提のお許しをもらいに行くんだ』という話は女子会の時にしていた。でもそれが本日とは知らせていない。

 やや動揺した様子の聖児だったが、急に毅然とする。

「いや、俺達が先に着いたんだ。引き延ばしはだめだ」

 引き延ばしはだめってなに? 小鳥の嫌な予感がますます膨らんだその時、聖児は父親に言い放つ。

「親父。俺、スミレと結婚する」

 そこにいる誰もが一瞬だけ目を丸くした。一瞬だけ。小鳥と翔も顔を見合わせ、でもちょっとだけ『くす』と微笑みあってしまう。すぐに先へ先へと行きたがる聖児らしい先走りだと――。

 だから英児父も落ち着いていたし、子供の頃から見せてきた元ヤンの凄味で息子を睨むだけ。

「おめえ、話になんねえ」

 そこどけ――と、立ち上がった英児父が聖児の肩を払おうとすると、再び聖児が父親に真向かった。
 


「子供が出来たんだ。スミレに俺の子が」
 


 はあ!? 今度こそ、事務所にいる大人達が揃って喫驚の声をあげた。



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