愛シテアゲル
聖児と英児父が本気で喧嘩をするようになって、『これは大変』と思うようになったのは、聖児が中学生になってから。
男と男の手加減なしの取っ組み合いの喧嘩を、冗談抜きで本当にする。年に一度か二度あって、その時は、さすがの琴子母もげっそり気力を失ってしまうほどの『スーパードッグファイ』。
それが、それが、始まろうとしている!?
娘であって姉でもある小鳥がショックで身動きできない中、それでも大人の彼の方が先に動いてくれる。
「社長。待ってください。まずはスミレちゃんの気持ちも聞いて差し上げたら」
英児父から、聖児を離そうと翔が背中をひっぱりながら叫んだ。
だか今度は、その英児父の恐ろしい視線が翔へと向けられる。
「おまえもだ、翔! 俺の父親としての気持ちをいま聞いただろ」
やっぱり。英児父はわかっていた。そんなの小鳥も翔もわかっていた。娘が部下の男と恋仲になって、そして娘とその男は父親にそのことを知られている。そして、娘が彼の部屋に通っていたことも、そろそろ二人が挨拶に来るだろうということも――。
今日だって、聖児が爆弾発言をするまでは、怖い顔はしていたけれど、聞いてくれそうな雰囲気だった。もしかすると、琴子母からこっそり聞いて父ちゃんも覚悟してくれていたのかもしれない。
でも、だめだ。もう、だめ。小鳥は顔を覆って泣きたくなってきた。いまの英児父の状態で、結婚の話なんてもうできない。