愛シテアゲル
「あら。どうかしたの。また小鳥ちゃんとお父さんが喧嘩したの。仕方がないわね、もう。英児さん、あのね……」
事務所の険悪な空気を読んだ琴子母は、この空気は父娘の毎度の喧嘩がつくったものと思ったのか、約束通りに怒っている英児父を宥めようとしている。
「う、うるせえっ。娘の話も、息子の話も、俺は聞かねえ。許さねえ!」
「息子の話ってなに?」
琴子母が首を傾げると、英児父は堪りかねたように社長デスクの後ろにあるキーラックに飛びついた。
そこからいつものキーを荒っぽく取り出すと、それを握って大股で事務所を出て行ってしまった。
矢野じいがため息をついた。
「あーあ、情けねえ。車に逃げやがった」
だがガレージから出てきたは、いつものスカイラインではなくて、真っ赤なレビンAE86。
「あれれ。レビンに乗るなんて珍しいな」
武ちゃんも眉根を寄せて訝しんだ。
「いやね。英児さんったら。よほど慌てていたのよ。スカイラインのキーを取ったつもりで、隣にかけてあるハチロクのキーを取っちゃったのよ」
龍星轟から真っ赤なレビンがエンジンをふかし、荒っぽく発進、走り去っていく。