愛シテアゲル
「ばっかだねえ。英児の野郎ときたら」
「ほんとほんと。ガレージでキーを取り間違えたとわかったはずなのに、戻ってこられないから間違えたまま仕方なくハチロクに乗って行っちゃったんだ。あんなタキさん、ひさしぶりにみた!」
矢野じいと武ちゃんがお腹を抱えてケラケラと大笑い。
だけど、小鳥はもう涙をこぼしてしまう。
なにこれ、台無し。せっかく翔とずっと前からこの日と決めて心構えを整えてきたのに。
そうでなければ、文句や嫌味を吐いても、父ちゃんは話を聞いてくれただろうに。
「小鳥ちゃん」
ひと足遅く来た母が、しょんぼりしている小鳥の肩を抱いてくれた。
「おかしいわね。昨夜、驚かせたらいけないとおもって『小鳥と桧垣君が話したいことあるそうよ』とだけ伝えておいたのに。それだけでも『ご挨拶』だと察してくれたみたいで『わかった』と言ってくれたのよ。それに『いよいよか~』なんて笑っていたのに……」
母の話に小鳥は涙を止めて顔を上げた。
「そうなの。父ちゃん、笑ってくれていたの」
「でも絶対に、父親と上司の威厳は緩めないと思ったから、私が間に入ろうと思っていたのに」
もう嫌ね――と母がため息をつくと、『ごめんなさい』と隅でおろおろしているだけだったスミレが割って入ってきた。
「まさか今日だったなんて。小鳥先輩、ごめんなさい。お母さん、私が悪いんです」
まだ何も知らない琴子母はきょとんとしている。今度は聖児がスミレの肩を抱き寄せ、でも、男の顔で母親に告げた。
「母ちゃん。スミレに子供が出来た。俺の子」
もちろん、琴子母もびっくり仰天。目を丸くして静止してしまう。