愛シテアゲル
熱くなってざわざわ乱れていた空気がひんやりと鎮まるような。クールな空気を吹き込んだ青年が、いつもの涼やかな佇まいで母に向かっている。
「俺と小鳥はまた出直してきます。いいんです。伝えられただけで。俺も、一度で許してもらえるだなんて思っていませんでしたし、その覚悟ですから」
「そうよ。桧垣君、その通りよ。また日を改めてみましょう」
そして母がそんな翔を見上げたかと思うと、深々と頭を下げた。
「娘を、よろしくお願いいたします」
「オカミさん……」
そして琴子母は、涙に濡れるスミレにも丁寧に頭を下げている。
「息子をよろしくお願いいたします」
「琴子お母さん……」
頭を上げると、琴子母はいつもの愛らしい笑顔。そして小鳥を見た。
「小鳥。女はね、死ぬほど好きで愛せる男に出会えるのが幸運なの。愛されるよりね」
母の肌が、艶めいて見えた。何歳も若返ったように見えて、小鳥はぼう然とする。子供だった頃の、英児父が可愛い可愛いと言って追いかけ回していたあの若奥さんの顔。