愛シテアゲル


 なのに潮風にジャケットの裾と小紋柄のネクタイをはためかせ、翔は腰をかがめてクスクスと笑っている。

「翔?」
「いや、あのさ。なんか、すごかったな。俺、滝田家の一員になったんだって、ほんとそう思えた」
「……おかしいの?」
「楽しいんだよ。俺、スミレちゃんと一緒なんだよな。静かな家庭のひとりっ子だったからさ。滝田家のあの賑やかさが羨ましいというか」
「そ、そうなの?」
「もう、ほんっと聖児にはやられるな。まさか結婚どころか親父なるって、どんだけ俺達を一気に追い越していくんだって」

 本当だった。そういえば、弟にはやられっぱなし。奥手なスミレよりは早くロストヴァージンができるだろうと思っていたら、手早い弟のせいで追い越されているし。それどころか結婚も出産も親になるのも先を越されそう……。

 でもなんだか、聖児らしい。あの弟こそ、ロケットと呼ばれる父親にそっくりなんだから。そう思ったら笑えてきた。

「もう、ほんとだね」
「だろ。あれもまた手に負えない義弟になりそうだな」
「そっかあ、弟になるのか。あ、じゃあ、スミレちゃんは本当の妹になるんだ」
「ついでに。俺と小鳥はいきなり伯父さんと伯母さんに昇格だ」
「うわ~。やっぱりうちは、めまぐるしいね」

 ふたりで笑いあった。



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