愛シテアゲル
でもやっと、小鳥も清々しく海の風を胸いっぱいに吸い込んだ。生まれた時からずっと慣れ親しんできた風の匂い。それをいっぱいに。
「それに。小鳥も……」
スープラの前にふたり、海に向かってみつめあう。そして彼が小鳥を胸に抱きしめる。
ネクタイから彼がスーツを着た日につけているコロンの香りがした。そのネクタイに頬をうずめ、小鳥も彼に抱きついた。
「私がなに?」
言いかけた言葉を、小鳥は聞き返す。
彼が耳元で囁く。
「愛シテアゲル。あれは遺伝だな」
小鳥は彼の胸元でそっと笑う。
そうだね。死ぬほど愛せる男性と出会えるのが幸せと言うママから受け継いだ遺伝。男を愛し抜く遺伝。
「私も、愛されるより、愛シテアゲル」
彼の腕の中、小鳥はハイヒールのつま先を立て、彼の唇にキスをする。
「もう生意気って言えないな」
夕が近い海辺、潮風に揺らめくカモメが長いキスをするふたりの上でキーキー鳴いている。
おじいちゃんの家に行こう。おじいちゃんにも報告しなくちゃ。
【 愛シテアゲル〈touch and go〉 完】