愛シテアゲル
夕方。銀パイプのすべり台の中に隠れていたら、男が顔を覗かせた。
『お前の意地っ張りは、なかなかのもんだな』
父親の英児だった。まだお店も開けているはずの時間なのに、龍星轟のワッペンがついた作業着のまま捜しに来てくれた。
それでもむくれて、膝を抱えたまま身体を硬くして出てこようとしない小鳥を見て、英児父がため息をつきながらも、お馴染みのヤンキー座りでパイプの前に座り込んだ。
『小鳥って名前、父ちゃんは気に入っているんだよ。大内のお祖父ちゃんが、琴子にプレゼントした眼鏡ケースが小鳥だろ。祖父ちゃんが、琴子は小鳥と言って選んでくれたんだってよ。母ちゃん、それからずうっとあの眼鏡ケースを大事に使っているだろ。死んだ父ちゃんが選んでくれた想い出のプレゼントだからよ。コトコとコトリ、可愛いママさんと可愛い赤ん坊でお似合いだった、お前達。ふたりが俺の龍星轟に来てくれて、父ちゃん、すんげえ嬉しかったなあ』
『お母さんが大事にしているあの可愛いケースの小鳥のこと?』
『そうだよ。祖父ちゃんは娘の琴子のことは大人になっても『いつまでも可愛い小鳥』だって、父親として娘のこといつまでも可愛く思って選んだんだろ。父ちゃんも会えなかった大内の祖父ちゃんのその気持ち、同じ気持ちを持つ父親になるぞ。と、お前を抱いた時に思ったんだ。そういう気持ちにさせてくれた祖父ちゃんからのプレゼントにしてあげたかったんだ』
『大内のお祖父ちゃんからの、プレゼント。小鳥に?』
そうだ。と、父が目尻にシワを寄せるこの上ない優しい笑みを見せてくれる。いつも怖い顔をして車屋をやっている親父さんがそんな顔を見せる時は、子供心にもとても愛されていると感じることができた。
そんな想い出。