愛シテアゲル
ベッドヘッドにある枕を立て、翔がそこに背を持たれ寝そべった。
「少し、休もう」
その隣へと、誘われる。
彼の隣に寄り添うように寝そべると、肌がくっつくように抱き寄せられる。小鳥の肌を静かにシーツで包んでくれた。
もうなにもしないよと言っている様だった。
「そんなに急がなくてもいいんだ。少しずつ慣れていこう。まずはこうして一緒に暖まることから、かな」
「……怒っていないの。私、翔兄を突き飛ばしたんだよ」
どこか哀しそうな目を彼が見せたので、小鳥の胸が痛む。
「正直に言うと。俺も、怖かったんだよ」
「え、お兄ちゃんが?」
やっと笑顔で小鳥を見つめ、うんと頷いてくれる。
「俺も。初めてなんだよ」
「初めて? えっと、だって、お兄ちゃんは。その、大人で経験あるじゃない」
『瞳子』という恋人がいたことだって、小鳥は知っている。学生時代から八年もつきあっていたんだから、何度も愛しあってきたのだろうに。
そっと首を振った翔が、枕を背に抱き合って寝そべる小鳥を、ぎゅっと愛おしそうに抱きしめたかと思うと、どこか気恥ずかしいように目線を逸らした。
「初めての子を抱くのが、初めてってことだよ」
それを聞いて――。小鳥もハッとする。
「つまり、それって」
翔がため息をついて、バツが悪そうに黒髪をかく。
「ヴァージン相手は、初めてってこと」
「そ、そうなの!」
お兄ちゃんが何人の女性とつきあってきたか知らないが、少なくとも恋人だったあの人は『お兄ちゃんが初めての男性ではなかった』ということだったらしい。