愛シテアゲル
キーをひねり、エンジンをかける。可愛らしい車に乗っている女子大生が多い中、親父世代が好んで乗ってきた90年代のスポーツカーのエンジンをふかす。
あちこちにカラフルでお洒落な傘。駐車場にいる女の子達が振り返る。だけれど小鳥がハンドルを回して発進させると、顔見知りは手を振ってくれ、知らない女の子達は笑顔で会釈をしてくれる。
『滝田先輩、いってらっしゃい』。
どこからともなくそんな声さえ、聞こえてくる。
車屋のお嬢さん、滝田さん。パパ達が乗っていたスポーツカーを走らせる『走り屋姉貴』――なんて、言われている。
大学は隣市の郊外にある。市街から通う子も多いが、バスや電車通学になる。車で通う子もいれば、この近くに下宿を構える子もいてそれぞれ。
ただこの女子大。構内はとても静かで綺麗で広いのだが、一歩外に出るとけっこう田舎。おっとりとした女の子や堅実で落ち着いた女の子が多く『お嬢様学校』と言い継がれてきた穏やかな環境は良いのだが、『街でイマドキの女子大生』とは言い難いところだった。
雨が強くなる中、小鳥は農道に近い一本道を抜け、やっと大きな国道に出る。走っているうちに国道の側は海になる。
せっかくの海の色が、雨で濁る。空も暗くくすんでいる。波も高く、青いMR2が走っているすぐ下まで打ち寄せてくる、ガードレールの下はすぐ海という古い国道。
忙しく動くワイパーを目の前に、狭い道幅と車線をスピードを抑えて走る。
その途中、オールドアメリカンをイメージした老舗のレストランが見えてきて、小鳥のMR2はそこに入った。
駐車場にはすでに見覚えのある黄色のSUV車、トヨタのFJクルーザーがあった。
その隣にMR2を駐車させ、小鳥は雨の中、店内へと急いだ。