愛シテアゲル


「ここのタルトパイ、デカイだろ。俺はムリ」

 目の前の先輩がため息をついた。

「そうなんですよね。アメリカンサイズ。美味しいんだけど、最後、ちょっとお腹が苦しくなっちゃう」

「で。最後に『食べきれない~。お願い、食べて』と言ってくれると、そこが可愛くて、それなら食べちゃうかな。俺」

「宮本さんは、ほんと相変わらずですね~」

 非常に慣れた調子で軽くいう。既によく知っている先輩の言いぐさだが、小鳥は苦笑いを浮かべてしまう。

「小鳥は、そうは言ってくれなさそうだな。うん、でも、小鳥はそのままがいいな。それが小鳥って感じ。甘えているお前なんか想像もつかない」

「そんな私だから、先輩とこうして話し合えるんですよね」

 はいはい、私は女らしくありませんよ。と言い捨てながら、小鳥は肩にかけていたトートバッグからスケジュール帳を出して広げた。

 そうでなければ、話し合いなんかそっちのけ。この先輩はすぐに女の子の手を握って、こうだよね、ああだよね、君可愛いねとやり出すのだから。

 小鳥も最初は『挨拶』として、それをされたことがあるが、この先輩をMR2の助手席に乗せて峠を走ってから、がらっと態度を変えられた。『小鳥は女じゃない』とハッキリ言われた。でもかえって好都合、さっぱりした。

 それからこの先輩が、本当の意味で、小鳥と真っ正面向き合って付き合ってくれるようになった。

 宮本圭介、国大経済学部の三回生。今春、四回生になる。こちらは『レジャーサークル』の部長。キャンプをしたり、サーフィンをしたり。とにかくアウトドアで楽しもうというサークル。彼はいまサーフィンに凝っていて、それでいつも男らしく日焼けをしている。



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