愛シテアゲル
車好きの元ヤン親父とお洒落でいつまでも愛らしいお嬢様ママの琴子母。その間に生まれたはずの末っ子が、何故か、母親の元カレみたいにデザイナーになりたいとか、父はどう思っているのだろうと。
「成人かよ。じゃあ、今日から酒もOKか。飲酒運転して捕まんなよ」
トーストを大口で頬張る聖児は、とにかく口が悪く、素直じゃない。喧嘩をするといえば、歳が近いこの生意気な弟とすることが多い。
「飲酒運転なんかするわけないじゃない。絶対、飲まない」
「でもよ。今日、サークルでパーティをしてくれるんだろ。絶対に飲まされるぜ。ハタチの記念にってさあ。悪ふざけで、飲むまで煽られて追いつめられてさあ」
「そんな強引な飲ませ方は、最近は禁止されているし、マナー違反として白い目で見られるよ。プライベートの遊びでも、守れなかったら学校も厳格に処分するようになっているでしょう。そういうやり方をするサークルのリーダーは管理能力がないと批判されるし、就職活動にも影響するんだよ」
「なに熱くなってんだよ。車屋の娘が捕まったら恥ずかしいから、捕まるなよって言っただけじゃんかよ」
玲児は素直におめでとうと言ってくれるのに。この生意気な弟はほんっと口ばかり達者で素直じゃない。
「そうだ、そうだ。スミレちゃんが狙われやすいから、気をつけておくね」
生意気な口を制するのにいちばんの殺し文句はこれ。『スミレちゃん』。すると、あんなに粋がっていた聖児がムキになって言い返すこともなく、むっつり黙り込んでしまった。
「安心したわ、昨今の大学生の方がことの重大さはわかってくれているようでよう」
黙って珈琲カップを傾けていた英児父が新聞をたたんで、子供達へと向かう。