愛シテアゲル


 しかもその女性がこちらに一直線に向かってきて、小鳥とぶつかった。
 長い黒髪を振り乱した涙の顔が、背丈がある小鳥を見上げた。

 その女性を見て、小鳥は息を呑む。
 そして彼女も――。

「こ、小鳥さん?」
「瞳子さん、どうして」

 だが彼女は、大人になった小鳥を見て、憎々しい顔で翔へと振り返った。

「子供に手を出したの? それで私に帰れと言ったの! やっぱりこの子とこうなったわね!」
「誤解するな。小鳥のことは、お前と別れた後からだ」

「違うわよ! 子供子供って翔は言っていたけれど、この子だってあの時から立派な女だったわよ! そう貴方が大好きな車のこと、一緒に話してくれて、社長さんの娘さんで、そりゃあ、面倒がなくて楽よね!」

 そして、彼女が髪を振り乱して叫んだ。

「こんな子がいなければ、私は結婚しなかったし、こんなに苦しまなかった! まだまだ翔と一緒にいた! あの頃の私に戻して!!」

 頭の奥で、なにかが砕けるような感触。

 え。子供だった私を、瞳子さんは気にしていた?
 もしかして、お兄ちゃんと瞳子さんが別れたのは、私も原因?

 私の、せい――?



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