愛シテアゲル
あの時、彼がMR2で狂ったようにスピードを出して怒りを吐きだしていた痛々しい夜を思い出す。
一緒にその痛みを分け合えたらいいのに。そう思い、小鳥は彼の傍にいた。その痛みを一緒に感じたいと。
でもあんなに彼を痛めつけた別れは、わたしのせいだったの?
小鳥が翔にまとわりついていなければ、二人は上手くいっていた?
あの時、お兄ちゃんの大事なものを壊したのは。私?
「いい加減にしろ。瞳子」
静かにお兄ちゃんが諭すと、彼が腕に抱いている赤ちゃんが急に泣き出した。
「お前、母親だろ。しっかりしろ」
「いや。もう帰らない。ここにいる! 翔と一緒にその子を育てる、いいでしょ」
なにがあったかわからない。でも、八年もお兄ちゃんと付き合ってきた女性の言葉は、まだ裸しかみせられない小鳥には衝撃的だった。
「小鳥!」
お兄ちゃんの声が背に届いた時には、小鳥はもう玄関ドアを開けて飛び出していた。