愛シテアゲル


 もう少しで峠の頂き。ダム湖に到着する。そこの駐車場がいつもの溜まり場で、今夜も誰かいるかもしれない。

 ひとまずそこに着いたら、翔兄に連絡をしてみよう。

 バックミラーがチカリと光ったので小鳥の目線がそちらへ向く。背後から白い車がやってくる。
 窓を少し空かして、車のエンジン音を確かめる。
 走るためにいじったエンジンだと直ぐにわかった。だけれど、見覚えのない車。

「白のランエボ?」

 三菱のランサーエボリューションがひとカーブ後ろにいる。

 赤と黒のランエボ乗りなら、数名知り合いがいる。いま集まる同世代仲間に白のランエボはいない。
 いるとしたら親父世代? エンジンの音も違和感がある。聞き覚えのないエンジンのような気がする。

 英児父のように週末に走りにやってくるお父さん達も少数だけれどいる。だけれど今日のような平日に現れることは滅多にない。

 けたたましいエンジン音から、向こうはかなりのスピードと馬力で峠を駆け上がってきている様子で勢いと気迫を感じた。

 そんなに走りたいなら、ただ走っている車は邪魔だろう。近づいてきたらやり過ごそうと思っていた。

 夜道に白く浮かぶランエボが背後に迫ってきた。小鳥はスピードを落とし、ウィンカーを出して路肩に寄る合図を出した。

 ブウンと唸るランエボがどんどんどんどんMR2の後部に迫ってくる。

「なんで。追い越してくれてもいいのに」

 冷や汗が滲んだ。もしかしてという小鳥の予感が当たる。

 後ろのバンパーあたりを巧みに『ごつん』と突いてきた。それで確信した。『煽られている』!



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