愛シテアゲル


 ヤンキー男達が、勝った負けただけのプライドをかけてやりすぎることがあるのはよく聞くこと。だが、小鳥の知り合いは皆、車が好きで走っている生粋の走り屋だけ。

 鬼ごっこのように、追いかけっこをするみたいに抜き抜かれつ走りっこをすることはあっても、相手の車を潰して勝ち誇るような闘争心剥き出しの仲間はいない。

 近頃、この峠に龍星轟顧客を中心としたグループが集まっている。それを聞いて他の走り屋が集まってきて、また逆に英児父の店へとやってくるというそんな良い流れができていた。

 それを良く思わないヤツの仕業?

 気を抜かず、小鳥はそっとサイドブレーキを落とし、ギアを握り、いつでも走れるようスタンバイをする――。

 MR2を見つけたランエボが、真っ正面にいる。
 小鳥は窓を空かす。向こうのエンジン音を聞くため。

 真っ正面にいるランエボが、激しくエンジンをふかした。
 ブウン、ブウン、ブウンブンブン、ブウン。明らかにこちらを威嚇している。
 後ろ足で砂を蹴り、いまにも走り出しそうな馬のよう。

 小鳥もパニック寸前になりそうだった。いま停車しているMR2の背後はダム湖。コンクリートの壁。バックをすることができない。進めばランエボと衝突する。なのに向こうはいまにもこちらに向かってきて、衝突しようかと脅かしている。

 つっこんできたら、向こうだって車体が潰れる。それをわかっていて何故こんな勝負を仕掛ける?

 こちらはホンマものの『背水の陣』。前へ進むことしかできない。こっちから衝突させて、賠償金でも払わす『当たり屋』?

 とにかく、質が悪い車に絡まれている最悪の状況だった。



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