愛シテアゲル
「お兄ちゃん、私、あのね、いま……」
やっと涙が出てきた。大事な車を壊された。質が悪い車に絡まれたのは、悪い男に襲われたような嫌な気分。
『お前はなにも気にしなくていいんだから。帰ってこい』
そして小鳥は気がつく。翔が電話しているその向こうで、まだ赤ちゃんの激しい泣き声がした。
「瞳子さん。まだいるんでしょう。私が行ったら、変にこじれるよね」
翔の深いため息。疲れ果てた彼の声が届く。
『よほど感情的になっていたのか、子供を置いて飛び出していったんだよ。そうでなければ、小鳥を探しに俺もスープラに乗っている。だけど赤ん坊を置いて行かれたから、いま出て行けないんだ』
え、子供を置いて出て行った!?
そっちもかなり衝撃的展開!
「な、な、なんてことなの。じゃ、あ、お兄ちゃん……、もしかして、いま、赤ちゃんと?」
『ああ、二人きりだ。もう泣きやまなくて困っているんだよ』
それは大変! 小鳥はすぐに背筋を伸ばす。
「お兄ちゃん。私、すぐ行くから。待っていて!」
スマートフォンを助手席に放り、小鳥は再びMR2のハンドルを握りしめ、アクセルを踏んでいた。