愛シテアゲル
「二十歳になった。お前達が望んでも望まなくても、ささやかながら晩飯はご馳走という誕生日会を準備してきたが、小鳥の祝いは今年で終了だ。いいな。大人になったんだ。来年からは一緒にいたいと思った友人と過ごしたり、自分のための日と思って歳を重ねていけ」
いざというとき、この元ヤン親父の言葉はとても重く、そしてそれが小鳥や弟たちを歩かせてくれる。
「うん。わかった。いままで美味しいごちそうで祝ってくれて、ありがとうございました」
お辞儀をすると、弟たちがしんみりして妙に大人しくなってしまった。姉弟でいちばん上の姉が最初に成人し、そこで初めて両親がどう考えているか知ったからなのだろう。
いつまでも小さな時のように大事に大事にしてくれているわけではない。ここで、ある程度突き放す、手を放す、大事に繰り返してきたことをやめる。そんなことも考えていたのだと。
「そして。聖児が言った通りだ。酒を飲むなとは言わない。仲間と酒でふざけて楽しみたいのが目的なら『エンゼル』はここにおいていけ」
『エンゼル』とは、小鳥の愛車、青いMR2のこと。小鳥だけのステッカーを貼っているのだが、そのデザインに天使が描かれているので、父親が『エンゼル』と呼ぶようになってしまった。
「飲酒運転に限らず、車で他人様に迷惑をかけた場合。その時はエンゼルと縁を切ってもらう」
たかが車かもしれない。だがこの家ではそうではない。車は家族同然。だから大事に乗る。それがモットーで親父さんのポリシー。『縁を切る』という表現は、この家では大袈裟ではない。
「わかっているよ。悪ふざけにも絶対に負けない。お酒で楽しむことよりも、エンゼルで走っている方が断然楽しいだろうと思っているから」
「わかった。その気持ち忘れるなよ、小鳥」
父の強い眼差しに、小鳥も強く頷いた。