愛シテアゲル
「お母さん。小鳥だけど……あのね、実は……」
簡単に事情を説明した。小鳥の腕にはぐずぐず泣きっぱなしの赤ちゃん。きっと母の耳にもその声は届いているだろう。
『ごめんなさい。小鳥ちゃん。お母さん、いま締めきりの依頼が重なっていて、今日も夜遅くまで残業で帰れそうにないのよ』
母の仕事は、昔から不規則な業務時間が特徴で、残業期間になるとほんとうに帰ってこなくなる。ちょうど、その時期だった。
「じゃあ、お母さん。教えて。どうしたら泣きやむのかな」
『わかったわ。なんとかするから。十五分だけ時間をちょうだい』
え、たった十五分? 首をひねってどうしてか問い返そうとしたら、もうそこで琴子母が電話を切ってしまった。
「え、切れちゃった」
「オカミさん、なんと言っていたんだ」
「十五分だけ時間をちょうだいだって」
十五分? 翔兄も首をひねった。
「オカミさん、まだ三好堂印刷にいるんだろ。ゼットを飛ばしてきたとしても、あそこからこの港町まで早くても三十分はかかる」
「だよね。なにか調べて教えてくれるのかな」
「調べなくても、オカミさんなら子育てベテランだろ」
それでも赤ちゃんはふぎゃふぎゃ泣いてばかり。