愛シテアゲル
「すごいね。赤ちゃんって。こんなに泣いても疲れないのかな?」
「もう、全力で一時間だぞ。そのうちに気絶するんじゃないかとか、死んでしまうんじゃないかと生きた心地がしなかった」
小鳥が来るまでは――。翔兄が小さくそう呟いたのが聞こえ、小鳥はふと……お兄ちゃんを見上げてしまう。
「戻ってきてくれて、良かった。本当に瞳子とはあれ以来連絡だってしていない。ただ、俺がここから引っ越していないだけで」
大きな手が小鳥の頭をそっと男の胸へと抱き寄せてくれる。
もう一つの長い腕が、今度は小鳥の背をぎゅっと抱きしめてくれる。
「お兄ちゃん……。私こそ、深く考えないで見ただけで飛び出しちゃってごめんね」
飛び出したその先で、酷い目にあったよ。きっとお兄ちゃんから簡単に逃げた罰だったんだね。
彼にそれを伝える前に、涙がこぼれた。
「ごめんな、小鳥。巻き込んで」
「ううん。大丈夫」
彼が何度も何度も黒髪を撫でて、側に抱き寄せて離れてくれない。
おかしいな。そうしていたら、赤ちゃんの声が少し小さくやんできた。でもまだ指をくわえてぐずぐずしている。見ていると胸が痛む。
「ママ、ちょっとだけ疲れていたんだよ。すぐに帰ってくるよ」
「うん。そうだな。あいつ、昔から完璧主義で、自分が思い描いたとおりにならないと、ああやって癇癪を起こすタイプだったからな」
そうだったんだ。とてもきちんとした大人の女性で、だからお兄ちゃんは彼女を八年も愛すことができるんだと、小さな小鳥は思っていた。
でもあの姿が、とてもムリをして作られていたものだったのなら。女性として自分自身の管理は上手くできても、結婚はそうではなかったのかなとふと感じてしまった。