愛シテアゲル


 ちょっとだけ、お兄ちゃんも小鳥も赤ちゃんも落ち着いたように、張り詰めていた空気がほっと柔らかに緩んだような気がした。

 その途端だった。チャイムが鳴る。

 二人はその素早い母の対応にギョッとした。

「え。まだ十五分も経っていないよね」
「ああ。十分も経っていない。七、八分?」

 どういうことかと二人で顔を見合わせる。

 揃って玄関へ出向いた。勿論、家主である翔が玄関ドアをそっと窺うように開けた。

 ドアが少し開いただけ。なのにその隙間から大きな男の手がガッと入ってきて、二人揃って後ずさった。しかもその手が翔の手を跳ねとばすようにして、勢い良くドアを開けた。

「こんの、お前ら、なにやっとんじゃー!」

 さらに二人は大きく後ずさった。そこに迫力満点ライオンのように吠えて現れたのは、龍星轟のジャケットを羽織った『お父ちゃん』!

「しゃ、社長……!」
「と、と、と、父ちゃん!」

 カレシの家に、父ちゃんが来た!
 しかも男の部屋に娘がいる。そして元カノの子供までいるこの状況。






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