愛シテアゲル
そして英児父は小鳥が抱いている赤ちゃんを軽々抱き上げた。
「おめえ、頑張っているな。偉いぞ。待ってろ。おっちゃん達がちゃんとしてやるからな」
男の広い胸にぎゅっと英児父が小さな赤ちゃんを抱きしめた。まだぐずぐずしているけれど、他人でも英児父のおっきな愛情が通じたのか静かになった。
そういえば。自分たち姉弟は、母が仕事でいない時はこの父親がなんでもしてくれたことを思い出す。武ちゃんのところの武ッ子も、この父親がおんぶをして事務所であやしていたほど、子守りの達人だった。だから琴子母がすぐさま派遣してきたのも頷けた。
――に、しても。お母さん、よく思い切って父ちゃんを娘のカレシの部屋にこさせたな。小鳥はおののいた。おっとり大人しそうな琴子母だが、英児父より大胆なことをする時があるから侮れない。
「小鳥。お前は粉ミルク買ってこい。56号線からバイパスに上がる高架付近にちっこいドラッグストアがあるだろ」
「うん。ある」
「地元のおっちゃんがやっている小さなドラッグストアだけどよ。二十三時までやってくれているんだわ。俺もお前らがチビの時にだいぶ世話になったんだよ。そこに行って、缶じゃない携帯用のスティックの粉ミルクがあるからよ。それ買ってこい。おっちゃんに『五ヶ月ぐらいの子』と言えば、正しいもん選んでくれるわ。それから哺乳瓶の洗浄剤も頼むわ」
「わかった」
「それを届けてから、また買い物行ってくれるな」
「うん。なんでもする」
小鳥はお遣いを言いつけられ、すぐさま出かけようとした。
「待てや。小鳥」
MR2のキーを手にして、玄関まで行こうとしたら、英児父に呼び止められる。
「俺の車で行ってこい」
飛んできた銀色の光を掴むと、スカイラインのキー。MR2に乗るなと言われたことに気がついた小鳥は固まった。