愛シテアゲル


「社長。例のランエボですね、きっと」
「間違いねえ。やってくれたな。しかも俺の娘に――!」

 男二人は既にあの不気味なランエボを知っているようだった。

「すごく荒っぽいヤツだったよ。許せないんだけど。父ちゃん、お兄ちゃん、あのランエボのこと知っているの?」

 神妙な面持ちで翔が小鳥を見つめる。

「最近、あの峠で白のランエボにやられた車の修理が増えているんだ。小鳥がダム湖を走っていないか心配で連絡をしていたんだけれど、遅かったか」

 翔が悔しそうに唇を噛み項垂れる。小鳥もあの後、すぐに彼からの連絡を受け取っていたらあんなことにならなかったのかもしれない。ちょっとした意地みたいなものが、あのようなことを招いたのだきっと。

 それに、知らなかった。ここのところお店が忙しそうで、そういえば修理車が多いなとは思っていた。まさか、いつも楽しんでいる場所がそんなふうに荒らされていただなんて――。

 シンと静まりかえった翔の部屋で、また赤ちゃんがふぎゃふぎゃと盛大に泣き始める。英児父がはっと我に返った。

「その話は後だ。小鳥、急いで行ってきてくれ」
「はい。行ってきます。お父さん」
「気をつけてな。慌てるなよ」

 頷いて、マンションの外に出る。



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