愛シテアゲル


 マンション横の路肩、青いMR2の後ろに黒いスカイラインが駐車していた。

 父はこの車も娘だと思って定期的に手入れをしてくれている。小鳥も手伝ったりして、父ちゃんからあれこれ教わったり、二人で油まみれになることもある。

 お兄ちゃんから引き継いだMR2。これを初めて運転した時の嬉しさだって忘れない。
 この二年、この車で沢山のお客さん仲間と走ってきた。嫌な思いなんてほとんどなかった。

「エンゼル……」

 ライトを覆っていたカバーが割れて砕けている。そこに手を当て、小鳥は跪いた。

 どうりで、今夜のダム湖には一台もいなかったわけだ。あのランエボを敬遠して、走り仲間がダム湖を避けていたことをやっと知る。そこへ、往年のスポーツカーで飛び込んできた小鳥は、恰好のカモだったらしい。

 走りに負けて、後ろから荒っぽく抜きに行くとか幅寄せとか、背後を煽るとかならまだわかる。なのにアイツは駐車している車の正面から脅して、正面衝突承知の『チキンレース』を仕掛けてきた。あの喧嘩を一方的に売るヤツは軽蔑されるはずなのに。

「許せない。今度、会ったらとっつかまえる」

 龍星轟の娘の血が燃えていた。

 

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