愛シテアゲル

  今夜おいで。(2)




 身支度を済ませ出かけようとすると、琴子母に呼び止められる。

「小鳥ちゃん。今日はその恰好で行くの」

 ハタチの誕生日、友達が集まって祝ってくれるのに。いつも通りの恰好だったからなのだろう。

「別に。いつもの仲間だから」

 だけど琴子母は小鳥をじっと暫し見つめていた。

「なに。お母さん」
「そうね。可愛くしていくなら、本当に見て欲しい人ひとりで充分よね」

 え、それってどういう意味。聞き返したくても、なにもかも見透かされていると気がついた小鳥は顔が熱くなるだけで言葉がでてこなかった。

「いってらっしゃい、小鳥ちゃん。あんまり遅くならないでね」

 門限ももうなくなる。それも思い出した。

 それは前々から両親が言っていたことではあったが、琴子母はそれでも、娘が調子に乗って遅く帰ってこないか案じているのだろう。

 小鳥を見送ると、母も仕事に出かける準備があるからさっとリビングに戻ってしまった。

 それとも。顔を真っ赤にした娘の気持ちを思いやって?

 ――本当に見て欲しい人ひとりで充分よね。

 その本当に見て欲しい人が誰だか。母は知っている。

 だけど。その人への想いが通じたことはまだ知らない。

 彼とキスをしたことも。既にこの肌を許して愛してもらったことも。その印がまだ肌に残っていて、そして、乳房の先が熱い痛みを覚えていることも。

 もう、母には言えない。これからは彼との秘密になっていくのだろう。

 

 

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