愛シテアゲル
「瞳子さん。結婚して何年だ」
英児父の問いに、翔も気を取り直したのか、しっかりと顔をあげて父に答える。
「二年、いえ、三年になりましょうか」
「結婚して三年内に出産、母親。順調じゃねえか。瞳子さんらしいな」
どこか含んだような言い方で、父が苦笑いをみせた。
「けど。結婚生活と子育てだけは、大人の思い通りにならねえわ。自分の思いだけで動くと破綻するんだよ」
途端に父の声色が険しくなった。それは徐々に批判めいている。
「相手がいるから家族が出来るんだろ。一人じゃ出来ねえんだぞ。相手と摺り合わせて夫妻になるもんだしな。自分の理想に合わせてもらうもんじゃねえよ」
そして父は翔を睨んだ。
「いいか、翔。きっぱり突き放すんだぞ。この子供のためにも、どうあっても一度は旦那のところに返せ。間違ってもかくまうんじゃねえぞ」
「当たり前じゃないですか! 未練なんかこれっぽっちもないことは社長だってご存じでしょう」
あの翔兄がムキになって言い返した。いつもは父の言うことを静かに聞いて頷いて、反論する時も理路整然と淡々と返して、その頭の回転の良さで勘だけで動く父を唸らせてきたのに。
それは小鳥の前だから? それとも彼女の父親の前だから? それとも……。