愛シテアゲル


「だから今夜は『二人きりだった』とならないよう、親父代わりの俺がお前とここに泊まる。いいな」

 上司のアドバイスと言い聞かせは、部下の青年にもきちんと理解されたようだった。

「ご心配かけます。お願いいたします」

 話し終えるころには、赤ちゃんが英児父の腕の中でジタバタしていた。

「おー、飲み終わったか。いい顔になったじゃねえか」

 赤ちゃんを目の前に抱き上げて、父は鼻と鼻をくっつけた。いま改めて、この親父さんは子煩悩なパパだったんだなあと小鳥は懐かしくなってつい微笑んでしまう。

「お前ぐらいになるともう、げっぷもできるかな。どれ」

 肩の方に抱き寄せて、まるい赤ちゃんの背中を父がぽんぽんと叩くと『げっふ』と盛大なげっぷが飛び出てきたので、小鳥はついに笑い出してしまう。

「はあ。やっぱ赤ん坊のこの柔らけえの、ぬくいの、たまんねえわ。やっぱ可愛いわ。懐かしいなあ」

 英児父がこうして、小鳥や弟達を育ててくれたことがとても良くわかる姿だった。

 お世話をしてくれたおじちゃんに心を許したのか、赤ちゃんもしっかりと英児父にしがみついていた。

「しかし困ったな。せめて朝までには戻ってきてくれないとな。お前の母ちゃん」

 本当にどこへ行ってしまったのだろう。衝動的に出て行ったなら、そろそろ冷静になっている頃なのでは――。実家でもない、友人宅でもない、二年以上音信不通だった元カレのところに来たのだから、逃げる場所はここが最後だったはず。

 まさか。早まったことを思い付いていないといいけれど。小鳥は急に不安になってきた。



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