愛シテアゲル


「恵太!」

 リビングに入るなり、彼女は置いていった赤ちゃんへと駆けていく。

「ごめん、ごめんね。置いて行っちゃって……」

 やっぱり、母親だと小鳥は思った。初めての子育てで疲れていただけ。あんなに泣いて後悔しているんだから……。

 そして彼女も子供を抱きしめると、顔つきが変わった。

「お騒がせいたしました。もう帰ります」

 英児父も翔もホッとした顔をした。

「私がご自宅まで送ってくるわね。そのまま会社に戻りますから」

 琴子母も疲れた顔だったが、父に微笑んだ。もうそれだけで、父もにぱっとご機嫌な笑顔になる。

「おう、すまねえな。琴子。頼むわ。あー、良かった。まあ、瞳子さんいろいろあると思うけど、そういうこともあるわ。でももう二度と子供を置いていくなよ」

 ひと説教するかと思ったけれど、あんまりにも瞳子さんがしゃんと立ち直った姿を見せたので、英児父も多くは言わないで送り出そうとしている。

「申し訳ありませんでした。もう二度といたしません」

 そして瞳子さんは、翔の顔を一度も見ようとしなかった。ダイニングテーブルにあるママバッグを見つけ、彼女も気がついたようだ。

「あの、恵太に……?」
「ああ。おっちゃんがな。悪いけど開けさせてもらったよ。この若い二人がどうこうできるもんじゃなかったみたいだからよ、呼び出されたんだわ。そんだけ、子育てのスキルてお母ちゃんお父ちゃんじゃないとダメなんだよ」

 すると瞳子さんが項垂れた。

「夫は、なにもしてくれません」

 そう返され、英児父の顔が曇る。



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