もう春は来ない
☆ 罪 ☆
「わざわざありがとう」
そう言って、皆に礼を言った山下の母親は、涙を拭いた。
葬式の時にも見た山下の遺影は、今日も、僕が最後に見た山下の笑顔とはまったく違っていて。
その遺影を見つめる母親の姿が、あまりにも心苦しくって。
その姿が僕らにはあまりにも居た堪れなく、
和也が、プリントアウトした隠し撮りの写メを母親に渡した。
「あーこれ、最後に姉ちゃんとキャッチボールした時のだ!兄ちゃん見てたの?」
和也は言った。
「あー見てたさ!お前の姉ちゃんがあまりにも可愛くてな!思わず写メ撮っちゃったんだ……」
そう言って、和也はまた泣き出して。
「兄ちゃん、男の子は泣いちゃダメだって姉ちゃんいつも言ってたぞ」
そう言うと、弟は、山下とそっくりな笑顔で和也の頭を撫でて。
そんなちっちゃな弟が、たまらなく逞しく思えた僕は。
思わず、
「今度は兄ちゃん達とキャッチボールしようぜ」
なんて。
僕らしくない。
ちょっと、小っ恥ずかしいことを。
だって、
これで、本当にキミに許されると思えたんだ。
春が、
今度こそやってくるって思ったんだ。
キミがサクラのように舞う春が、
いつかまた、やってくるような気がしたんだ。