女王の密戯
「あれ、愛宕さんは?」

トイレから戻ってきた三浦が茶田の周りをきょろきょろと見回しながら聞いてきた。

「飯に行かせた」

こんなことをしたら一緒に食べたかった、などとぼやかれるかと思ったが予想に反して三浦は「もう昼過ぎてますもんね」と言っただけだった。三浦は何処か行動が読めないところがあるのだがそれは年齢が違うからだろうか。

「しかし、何もない、て答える人ばかりですね」

三浦は腰に手を置いてふう、と長く息を吐いた。
殺された大城和樹は映画製作会社のスタッフだった。スタッフといえどアルバイトであった大城の仕事は雑用のみ。買い出しや機材、セットの片付けが主な仕事だったようだ。

そんな彼について他のスタッフなどは大した印象のない男だった、と答えてくれた。殺し方や遺体を放置したことなどから捜査本部では怨恨の可能性を強く見ている。
人気のない廃ビルを選んだことから計画的な殺人、ということで犯人は知人である。それが捜査本部が固めた見解だ。

なのに大城を恨んでいる人物どころか、恨まれることもあると思えない、という者しかいなかった。
見解が外れているのか。それとも何かを見落としているのか。

大城がスタッフとして働いていた撮影現場は今日も撮影を続けている。スタッフが一人死んだくらいで撮影を止めることはないのだろう。

「もう少し聴いて回ろう」

茶田はそう言いながら撮影所へと足を戻した。






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