女王の密戯
やけに頬の筋肉が動くように見える。芝居というのはそれ程顔の筋肉を使うのだろうか。茶田は目の前に座る男の顔を見ながらそう思った。
人気俳優、和田幸裕。年は確か二十八歳。ということは隣に座る三浦と同い年ということだが和田はもっと落ち着いて見える。見た目が老けているということではなく、雰囲気そのものが落ち着いているのだ。

「大城君でしょ。何度か飲みに行った席にはいたんだけど、個人的に会話をしたことはないかな」

和田はにこにことした表情で答える。警察の事情聴取を雑誌のインタビューか何かと勘違いしているのだろうか。
優男、という表現がしっくりとくるが半袖から伸びた腕には確りとした筋肉がついている。それは彼が常日頃身体を鍛えている証なのだろう。

「なら、これといって気付いたことはないですか?」

三浦が訊くと和田はそうですね、と首を捻った。俳優という人種は何をしていても様になるのだろう。そして、そういう人が俳優になるのだ。

「ない……いや、あるかな」

和田は何度か瞬きをしながら言った。だが、でも大したことじゃないな、と口の中で呟いた。

「どんなに些細なことでもいいのでお聞かせ願えますか?」

茶田は口角を少し持ち上げて言った。すると和田はええ、と言ってから言葉を続けた。

「大城君、気になる人がいたみたいなんですよね」

和田は微かに頷きながら話していく。

「でも相手にされてないみたいで躍起になってるようだ、てスタッフの女の子が言ってました」

スタッフの男とは会話をしなくても、スタッフの女の子とは会話をするようだ。それだけのことで和田がどういった男かわかったような気がした。

「その女の子の名前、教えてもらえますか?」

茶田が言うと和田はいいですよ、と言い、住川理子、という名前を教えてくれた。


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