女王の密戯
住川理子はスタッフ、というには他と較べて派手な外見をしていた。明るい茶色に染めた長い髪はくるくると巻かれ、それはお情け程度に軽く束ねられている。そして濃いアイメイクにはっきりと塗られたオレンジ色のチーク。
そして何より綺麗な子だ。

歳の頃合いは二十二、三くらいだろうか。少し骨格が骨ばってはいるが顔立ち自体はかなり整っていて周りにいる名前も知らない女優よりよっぽど綺麗だ。

「大城君に気になっている人がいるのは知ってましたけど、それが誰かまではちょっと……」

理子は語尾を伸ばし気味に答えた。
大きめの口についた厚めの唇にはたっぷりとグロスが塗られていて彼女が口を開く度にそれがきらきらと輝く。

「推測でもいいです。思い当たる人物はいませんか?」

茶田の質問に理子はええ、と首を傾げた。綺麗は綺麗だが、この子に愛想というものはないようだ。

「ああ……でも、相手にされない、みたいなことは言ってた気がしたかなぁ」

理子は目線を上に向けながら言った。
それは茶田が質問したこととは違う答えだ。

「でも、それが誰か、て言われるとなぁ」

理子はまた首を傾げた。軽く結われた髪が顔の動きに合わせて揺れる。それが顔にかかると細い指でそれを退かす。

「では、何か思い出したことがあったら連絡下さい」

茶田は言いながら名刺を理子に渡した。すると理子はそれを眺めながらわかりましたぁ、とわかっていてないような返事をした。
これ以上この娘からはなにもかも聞けそうにない、と茶田が溜め息を吐いたとき、撮影所内が俄に賑やかになった。

歓声に似た声が辺りに広がる。

茶田と三浦はそれに気付き、その方向に顔を動かした。

「遅くなりました」

するとそこにはきらびやかな衣装を身に纏った美しい女がいた。
百七十近くはあるだろう長身にすらりと伸びた長い手足。そして身体の凹凸は減り張りどころではなく、素晴らしいものだ。大きな膨らみを持った胸に、滑らかな線を描く腰。
そしてそのスタイルを存分に生かしたドレスを着ている。

米澤紅華。

彼女は普段殆どテレビも映画も観ない茶田でも知っている女優だ。


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