女王の密戯
可憐な役から妖艶な役までこなし、その時々で表情を変えてみせる。そんな彼女はまさに演劇会で不敵の女王と呼べるだろう。

「私も、何かお話ししたほうが宜しいのかしら?」

紅華はマネージャーに顔を向けて言ったが、それは明らかに茶田に向けてのものだとわかる。少しハスキーな声は妙に色気があり、耳元で囁かれたなら誰でも彼女の虜になってしまいそうなほどだ。

「ええ、出来れば」

茶田は立ち上がりそう言った。その口許にはにやり、としか表現出来ないものが浮かんでいる。

「なら、撮影押してしまってるみたいなので、後ででもいいかしら? 私、今夜は何の予定もないものですから」

紅華は今度は茶田の方に顔を向けて言った。その唇には何色と言っていいのかわからないルージュが塗られていて何とも艶めかしい。
ボブスタイルに切り揃えられた髪がまた大人の魅力を感じさせ、先程の理子などは確かに美しいが彼女を前にしてはその美しさも霞んでしまう。

「ええ、構いませんよ。お待ちしてます」

茶田は元々細い目を更に細めて笑った。開けた唇の隙間から見える八重歯は何か獲物を見付けた獣のように光っている。







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