女王の密戯
「茶田さん、ああいう女の人がタイプなんすか?」

一旦撮影所を離れたところで三浦が唐突に訊いてきた。茶田は三浦が何をどうしてそう思ったのか不思議でならず、彼の甘い顔をつい凝視してしまった。
すると不意に「あれ」が頭を過る。

「……何でだよ」

茶田は慌てて三浦から目を逸らした。だが三浦はそんな茶田の行動には気付かずにまあ、綺麗ですけどね、とまるで不貞腐れた女のような態度を取っている。

「確かに綺麗ですし、魅力もありますけど、愛宕さんのが女性らしくていいと思いますよ」

三浦の言いたいことが漸くわかった茶田は深い溜め息を吐いた。
どうして好きなら、自分のものにしようとしない。相手の気持ちを尊重する、なんて行為はただの臆病者がすることだ。

茶田は自分に由依の魅力を伝えてくる三浦に辟易とした気持ちになった。

「取り敢えず、愛宕と合流しよう。それから俺は夜、あの女から話を聴く」

茶田が言うと、三浦が意味なくないですか、と変な日本語で返してきた。意味があるのかないのか、はっきりとした言葉にしてもらいたい。

「いや、あるよ」

茶田が言うと三浦はええ、と今度は間抜けな声を出した。

「だって、和田も知らないくらいっすよ? それなのに、米澤紅華みたいな大女優が一スタッフのことなんて知ってますかね」

三浦は茶田の行動の意味がわからないとばかりに眉をしかめた。外は思いの外寒く、早く何処でもいいから屋内に入りたい。

「だからだよ」

茶田は一雨きそうな空を見上げながらそう返した。夕べ雪になったことを考えるともしかした今日も雪がちらつくかもしれない。

「え?」

三浦はまだわからないのか、大きな目をぱちくりとさせながら首を傾げる。伸びた前髪が揺れ、目の部分にかかっている。

「他の俳優や女優は、スタッフのことなんか自分には関係ない、そういった態度だった。なのにあの女だけは自分から話をするべきか、と言ってきたんだ」

そんな者は他にはいなかった。
誰も彼も話を聴かれるのを嫌がったし、スタッフと自分では何の関わりもない、といった態度でもあった。にも係わらず、紅華だけは自ら話をしたほうがいいかと訊いてきたのだ。

たかがそれしきのことで疑ったりはしていないが、話を聴く価値があるとは思ったのは確かだ。


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