女王の密戯
茶田からの電話に由依はこのうえなく明るい声で応えた。電話越しに聞く由依の声はまるで十代の少女のようだ。
何処にいるのかを尋ねると由依は撮影所の直ぐ近くにあるカフェの名前を口にした。飯を食えと言ったのにどうやら食べずに茶田を待っていたようだ。

茶田が今からそこに行くというと由依は嬉しそうに待ってます、と返してきた。そこで電話を切り、由依の待つ店へと三浦とともに向かった。



店内は夕方ということもありそれなりに賑わっている。
広い店だというのにその席の九割は埋まり、それぞれが楽しそうに会話に華を咲かせている。
店内に流れるBGMも意味かないと思えるほどに会話のほうが騒がしい。

「何かわかりましたか?」

由依は茶田と三浦が到着するなりそう訊いてきた。
ここで「待ちくたびれた」などと言わない辺りは由依のいいところだろう。それとも一応彼女も刑事の端くれということだろうか。

「特に何も」

答えたのは三浦だ。
セルフサービスらしいので茶田は三浦が席に座る前にコーヒー、と言った。三浦はそれにわかりました、と答えてカウンターへと向かっていく。どうせ三浦はカフェラテやカフェモカなどの甘いの飲み物を買ってくるのだろう。

由依の前には軽く何かを摘まんだのか、パンくずの乗った皿と空になったコーヒーカップが置いてある。

「まだ調べることがあるから、今日は先に帰ってくれ」

茶田は由依の前にあるコーヒーカップに視線を落としながら言った。コーヒーカップにはミルクを入れたのであろうコーヒーが僅かに底に残っている。

「あたしも一緒じゃ駄目ですか?」

案の定、由依はそう言った。

「何時になるかわからないから」

茶田はそう返してから由依の顔を見ると、由依の瞳は悲しそうな色をしている。
そんな目をされても、と茶田は小さく息を吐いた。



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