女王の密戯
「お待たせしました」

それでも駄目だと口にしようとしたとき、三浦がコーヒーを運んできた。
二人掛けの席を二つ、三人で使っている形で一つの席に茶田と由依、そしてその右隣の席を三浦が一人で使っている。

三浦はコーヒーを茶田の前に静かに置き、もう一つを自分の前に置いた。そのカップからはやはりチョコレートのような甘い香りが漂ってくる。

「兎に角、今日は帰れよ」

茶田はコーヒーカップに手を伸ばしながら言った。店内は程好く暖房が効いてはいるがコートを脱ぐほど暖かくはない。目の前に座る由依もコートは脱いでいるがその肩にはストールを羽織っている。

由依は茶田の言葉にうんともはいとも言わずに、少々恨めしそうに茶田を見てくる。

「愛宕さん、明日、そう明日、茶田さんご飯行ってくれるそうですよ」

そこに三浦が割り込むように顔を出してきた。何を勝手なことを。そう思ったがあまりに唐突な言葉に反論する余裕もない。

「本当ですか?」

すると由依は途端に表現を輝かせた。
ここで違うと言えば由依はこのあとの聴取に何が何でもついてくると言うのだろう。なので茶田は仕方無しに本当だ、と呟いた。すると由依はじゃあ今日は帰ります、と笑顔で頷いた。

そのことにほっとしながら、明日のことはまた明日考えればいいか、と心の中でぼやいた。




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