女王の密戯
笑顔で手を振る由依を見送ってから、茶田と三浦は撮影所へと引き戻した。撮影は既に終わったのか、外から見ると明るさはなくなり、大勢の人が出入りしている。
すっかり暗くなった道から見る、華やかさの消えた撮影所は何処か寂しく感じられる。

「お待たせしました」

撮影所に一歩足を踏み入れると既に私服に着替えを済ませた紅華がマネージャーらしき女を横に置いて声を掛けてきた。
女優というのはもっと派手な私服だと思っていた。茶田は紅華の私服姿を見るなりそういった感想を抱いた。

茶色いニットのセーターにタイトなジーンズ。手にしているコートも黒のシンプルなものだ。それでも人並みを遥かに越えたスタイルに整った顔立ちでは、そんなものでも見事に着こなしている。

「いえ、待ってませんよ」

茶田は口角を上げて紅華に言った。すると紅華はにこり、と微笑んでから隣の女に顔を向けた。

「今日はもう帰っていいわ」

紅華は隣の女にそう告げた。その女は紅華の引き立て役としか思えぬ程に地味な女で、流行遅れの大きな銀縁の眼鏡を掛けている。真っ黒の髪は大した手入れをしていないのかところどころはねていて、毛先が傷んでいる。

「はい」

女は小さな声でそう言って、ぺこりと頭を下げてから静かに去っていった。

「彼女は付き人の武宮公佳です。あ、彼女からも話を聞きたかったかしら?」

マネージャーと付き人とは何が違うのだろうか。茶田は公佳の後ろ姿を見ながらそんな疑問を抱いた。

「ええ、まあ、彼女が知ってることがあるなら」

「あら、なら呼び戻しますね。もしかした何か知っているかもしれませんし」

茶田の返しに紅華は細い指を口許に運んだ。

「いえ、明日でも結構ですよ」

茶田が言うと紅華はそうですか、とまた微笑んだ。




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