女王の密戯
「さあ、お話ししましょうか。それとも、お食事を楽しんでからにします?」

紅華が女将が置いていった湯呑みに手を伸ばしながら言った。本来ならビール、というところなのだろうが茶田が車の運転ということもあり、アルコールの類いはやめたのだろう。
美しいだけでなく気遣いも出来る女性。それが米澤紅華という女なのだろうか。

「お話ししてしまいましょう。我々は食事をメインに来たわけじゃありませんから」

茶田が言うと紅華はそうでね、と口許を緩めた。

「では、まず殺された大城さんのことですが、個人的な付き合いなどはありましたか?」

茶田の隣では三浦が慌ててスーツの胸ポケットから手帳を取り出した。

「いえ、特には。大城さんのことはスタッフの一人としてしか認識していませんでした」

紅華は湯呑みに口をつけてから少し間を置いてそう答えた。
これが嘘かどうかはわからない。

「撮影現場でもお話ししたりは?」

「挨拶とか……まあ、何気ない会話くらいなら」

そう言ったタイミングで軽く首を傾げる様が何とも言えず色っぽい。わざとそうしているのか、それとも意識せずともそういった仕草が出てしまうのか。

「そうですか。なら、大城さんについて何か気になったこととかはありますか?」

自分から話をすると言い出したにも関わらず、何の関係もありませんでしたというのでは些か矛盾が生じる。まさか、刑事とただ食事をするつもりだったわけではないだろう。

茶田は紅華の視線の動きを逃さないように観察した。それに三浦も倣っているようで、背筋を真っ直ぐに伸ばしているのが気配だけでもわかる。

「何か……というほどのことはありませんけど」

紅華の声色は作られたものなのか、自然と耳に滑り込んでくるかのようだ。


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