女王の密戯
「何でもいいので、教えて頂けますか?」

茶田は少しだけ身を乗り出すようにして口を開いた。すると紅華は少しだけ焦げ茶色の髪と揃いの色にした眉を微かに動かした。

「大城さん、何か気になる人がいたみたいですけど」

それは既に理子から聞いた話だ。なので茶田にはそれが新事実には思えなかった。

「それが誰か、ご存知ですか?」

そう訊いたのは三浦だった。

「そこまでは」

紅華はそう答えながら首を横に振った。ボブスタイルに切り揃えられた髪の毛先が僅かに揺れる。そして、耳朶から下がったピアスの鎖は動きより少し遅れて揺れた。

「でも、高嶺の花、のようなことは言っていましたね」

紅華は細く長い指を顎に当てた。
彼女の仕草や動作は何処まで意識的なものかわからない。

「それは、直接本人から訊いたんですか?」

茶田の問いに紅華はええ、と顎から指を外して頷いた。そのタイミングで襖が静かに開けられる。するとそこから女将が料理を運んできた。
前菜的なそれはどんな料理名かも調理方法も茶田には全くわからない。それは茶田が料理に疎いからということではなく、それほどまで普段目にしないものだということだ。

「ええ。中打ち上げのときだったかしら」

紅華はす、と箸に手を伸ばしながら答えた。その爪は薄い桜色で何処か紅華の雰囲気とは合わない。
彼女に似合うのはもっとこう、深い赤だ。深紅、という言葉が不意に茶田の脳裏に浮かぶ。

何ものにも染まらぬ深い色。そして何処か仄暗く、誰をも寄せ付けない色。

彼女の何を知るわけでもないのにそう思えてならない。



< 25 / 70 >

この作品をシェア

pagetop