女王の密戯
「中打ち上げ?」

茶田は出された料理に手も付けずに聞き返した。

「ええ、撮影の中盤でやる、なんていうのかしら。親睦会というか、これから後半も頑張りましょう、みたいなものですかね」

要は「飲み会」ということか。
小首を傾げる紅華を見ながら茶田はそう解釈した。そんなふうに会話を交わしている会田にも次々と料理か運ばれてきていたが茶田はそれらに手を付けずにいた。

紅華も料理には殆ど箸を付けておらず、三浦だけが旨そうに箸を進めていた。

「そのときに大城さんと会話を?」

「ええ。もう終わりがけのときに少し。酔ってらしたみたいで、千鳥足で近寄ってこられたんです」

酒の勢いで大女優に近付いてしまったのか、それとも酒の力でも借りなければ近寄れなかったのか。

「そこで聞いたんですか?」

茶田が訊くと紅華は少し視線を上に向け、それを戻してから頷いた。また襟足より長く切られた耳に被さる髪が揺れる。

「好きな人のことを全て知りたいと思うのは異常なことですか、とまず訊かれました」

紅華は茶田の目を真っ直ぐに見ながらそう言った。
天然の色なのかそれともカラーコンタクトレンズを装着しているのかその瞳は薄茶色だ。ずっと見ているといつか吸い込まれてしまうのではと思える程のその色は何とも形容し難い。

「それで、好きな人でもいるの、と返したら、自分には手の届かない人だと。だから、その人の全てを知りたいと思ってしまうと」

紅華はゆっくりとそう答えた。


< 26 / 70 >

この作品をシェア

pagetop