女王の密戯
「そのあとはどんなお話を?」

座卓の上に置かれた小さな鍋がぐつぐつと煮える音をたて始めた。淡いブルーの燃焼材は大分小さくなり、鍋が煮えたことを伝えているがその鍋の蓋を取ったのは三浦だけだ。
鍋からは海鮮の出汁か、いい香りが漂ってくるが食欲をそそるものではない。それは単に茶田が食事をする気分でないからということだけで、隣では三浦が美味しそう、と小声を洩らした。

「そのあとは、どんな人なの、と訊きましたが、それに関しては何も」

紅華も鍋の蓋に手を伸ばしたので一応茶田もそれに倣った。蓋はおしぼりを使わないと熱くてとても持てるものではない。

「では、その相手については知らないと」

茶田の言葉に紅華は蓋を静かに置きながら頷いた。自分の目の前に香りがきても食べたいと思えるものではない。

「そのあとは直ぐに大城さんは何処かに行ってしまいました」

紅華は鍋の中身を小鉢に取りながら言った。
美しい女性と食事を共にしているというのに当然ながら浮かれた気分にはならない。
仕事の一貫でしかないという思いが食欲さえも殺ぐ。思えば今日はまだ食事らしい食事は一度もしていないというのに。

「そうですか」

茶田が言うと紅華はええ、と頷いた。
三浦の目の前の食事だけが見事になくなり、紅華の前のものは少し、茶田のものは殆ど手付かずの状態で食事を終えた。





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