女王の密戯
「何が?」

キーを差し込みながら聞くと、三浦はえ、と間抜けな声を出した。自分が言いたいことを理解していない茶田が理解出来ないとでも言いたげな声だ。

「あの綺麗さですよ。顔も見た目も、仕草も何もかも。完璧過ぎて逆に違和感覚えます」

三浦は身ぶり手振りで伝えてきた。

「ま、言われたらそうかもな」

確かに紅華は「完璧」なまでに美しい。
最初は確かに茶田もそれに違和感を覚えたがずっと見ているうちにその感覚は薄れた。女優なんてものは皆美しく洗練されていて当たり前と思うようにまでなったのだ。

「だけど相手は女優だぞ? そんなものじゃないか?」

キーを回すとエンジンが回る振動が伝わってきた。茶田はどうもこの感覚が苦手で、仕事以外で車に乗ることはまずない。

「でも他にも撮影現場に女優さんはいましたけど、あそこまでじゃなかったですよ?」

言われてみればその通りだ。
撮影現場には紅華の他にも女優は沢山いたが、誰も彼も彼女の美貌には敵わない。他の女優だって、そこらの女と比べれば美しいことに違いはない。それでも彼女の足元にも及ばないように思える。

だとしても茶田には紅華の美しさが「特別」と言えるほどだとは思わなかった。

「全身整形とかだったりして」

三浦は車が走り出すのと同じタイミングでぼそりと呟いた。






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