女王の密戯
「お待たせしました」

数分後、公佳が折り畳み式の椅子を三浦の後ろに置いた。余程走ったのか、息が少し上がっているし額にはうっすらと汗をかいている。

「お手数掛けてすみません」

それに対し、三浦が深く頭を下げる。

「では、お話の続きをしましょうか。映画にはご興味が?」

全員が椅子に腰を下ろしたところで紅華が口を開いた。まだ冷え込むこの時期、幾らコートを着ていてもじっとしていると身体の芯が冷えてくる。しかもどうやら今年は例年より暖かくなるなるのが遅いようだ。

「いえ、お恥ずかしながら芸術的なものは殆ど」

茶田が苦笑いをして答えると紅華がくすりと笑った。

「映画は芸術的なものではありませんわ」

そして返ってきたのは予想外の答えだった。女優というものは映画を芸術的なものと考えていると勝手に思っていたからだ。

「私が思うに、芸術というのは一人で作り上げるものだと思うんです。でも映画は一つの作品を作るのに大勢の人が関わります。それに、芸術は見る者を選びますが、映画は選びません。大衆に向けてのものなので、エンターテイメント。私は映画をそう考えています」

はっきり言って、紅華が言っていることはほぼ理解出来なかったし、するつもりもなかった。

「お好きな映画作品はあります?」

紅華は微笑みながら茶田達に尋ねてきた。



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