女王の密戯
「いえ、私は特に」

茶田は軽く首を振りながら答えた。

「あたしは『プラダを着た悪魔』が好きです」

それに続いて答えたのは由依だった。そのタイトルがどんなものか茶田にはさっぱりわからなかったが紅華にはわかるらしく、「貴女にぴったりの作品ね」と返した。

「自分も特に映画は」

三浦の答えも茶田にとっては意外なものだった。彼の風貌から勝手に月に何度かは映画に行くように思っていたのだ。

「今回の映画は昭和初期を舞台にしているんです。正確に言うと、昭和初期から現代に掛けて。とある美人の不幸な一生を追うものです」

そう言われてみると撮影所内のセットも女優や俳優の衣装も今時のものではない。
紅華が纏っているドレスも豪華なものではあるが、そのデザインは少し古めかしい。

「こういった衣装はワンシーン限りなんですよ。このあとウィッグもつけますし、全体的に地味な衣装ばかりになります」

紅華は茶田の視線に気付いたらしく、コートの前を少しだけ開けてみせた。豊かな胸はあまり目立たない作りになっているらしく、私服のときよりスレンダーな印象を抱かせる。

「このお話、事件に何か必要ですか?」

紅華が少しだけ首を傾げながら訊いてきた。
そのタイミングでいつの間にか姿を消していた公佳がトレーに紙コップを乗せて戻ってきた。そこには温かい飲み物が入っているらしく湯気が昇っている。

冷たい空気に更に湯気が濃くなっているようだ。



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