女王の密戯
「……茶田さんて、ああいう人、タイプですか?」

由依が茶田の顔を覗き込むようにして訊いてきた。ここでそうだと答えたならばこの娘は自分のことを諦めるのだろうか。茶田はそう思いながら由依の小さめの瞳を見た。
三浦は茶田の遣いでコーヒーを買いに行っている。彼がいたならこんな空気にはならないが、由依の会話に乗ってくることも確かだ。

「いや、ああいう派手なのはタイプじゃない」

茶田は結局のところ本当のことを口にした。すると由依はそうなんですか、と顔を綻ばせたが直ぐに眉間に小さく皺を寄せた。
ああいうのはタイプではないが、お前がタイプというわけではない、という意味を嗅ぎ取ったのだろうか。

「あの人、派手ですか?」

だが由依の発言は予想外のものだった。

「先程私服も見ましたが、特に派手という感じはしませんでしたけど」

確かに紅華の私服はシンプルで派手と呼べるものではない。だが地味というわけでもない。地味でないからといって派手というわけではないが、彼女は茶田から見たら派手な女なのだ。

この間案内された店に、彼女の立ち振舞い。彼女は派手な女性だ。

「いや、あれは派手な女だよ」

茶田の言葉に由依はそのことの意味がわかっていないという表情をした。
茶田は敢えて補足もせずに三浦と温かい缶コーヒーを心待ちにした。
もう春は直ぐそこだというのにまだ冷える。特に夜は底冷えするほどだ。

いつになったら春の暖かい風を感じることが出来るのだろうか。






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