女王の密戯
彼に殺される理由など全くなかった。あっては堪らない。
まだ五歳のこどもに殺される理由などあるはずがないのだ。それなのに無惨にも殺害され、まるで見世物のように遺体を何枚も写真に撮られ、様々な人間に見られ、それに直ぐに温かい毛布を掛けてやることも出来なかった。

ただそれを眺めていた。
人形のように扱われる姿を見ながら、それが犯人逮捕に繋がる術だとは思えなかった。ただの無意味な行為にしか思えなかったのだ。そして現にそれらをもってしても茶田の息子を殺した犯人を見付けることは出来なかった。

息子の身体を縛るロープに残された指紋は前科者のデータベースに一致するものはなかっし、現場に残された靴跡は量産品でそれを購入した人間は日本全国に何万人もいた。

現場での聴き込みは何度も繰り返されたが犯人に繋がる目撃情報は一つもなかった。

そしてそれは全て同僚から聞いたことだった。

被害者が身内であった為、茶田は捜査から外されたのだ。端からただ、捜査に右往左往する同僚達を眺めていることしか出来なかった。そしてその間も、何を考えていたか今の茶田には思い出すことは出来なかった。

ただ、家に帰れば泣いてすがってくる妻を見るしかなく、それが嫌で家にも帰らなかったのだけは覚えている。

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