女王の密戯
翌日東京八王子。
十時五分。
本当に此処は東京都なのかと疑いたくなる程の景色。遠目には山がある。そこは確か高尾山といい、パワースポットとして有名だったはず。そしてこの知識は勿論茶田のものではない。
「お疲れ様です」
下から聞こえる声に茶田は視線を動かした。都心と比べて数度気温が低いらしく、まだ真冬のように寒い。
「……お前の出番、ないはずだろ」
目線の先でにっこりと微笑む女に茶田は冷たく言い放った。すると女はやだ、と言って微かに焦茶色の眉を下げた。
「お願いしたんですよ、父親に。現場に出たい、て」
女――愛宕由依はそれがまるで当たり前のことかのように言う。茶田は自分が身を置く組織に再び疑問を感じた。
警視庁捜査一課殺人犯係。
そこが茶田が籍を置く場所だ。
「それで此処の刑事課に?」
茶田が尋ねると由依は笑顔のまま首を横に振った。あまりの寒さの為に、ふっくらとした頬とす、と伸びた鼻筋に赤みが差している。その顔はまだ十八歳くらいにしか見えないが、彼女が実は二十五歳だというのは知っている。
それは前月、由依が何度も茶田に何日で二十五歳になるので誕生日祝って下さい、としつこく言ってきたからだ。だがそれが何日だったかは由依の言う通りに行動しなかった茶田は既に忘れている。
「警視庁からの研修です」
という名目、というのをつけ忘れていると思ったが口には出さなかった。
愛宕本部長の娘、愛宕由依。
少し細めの瞳に笑うと出来る笑窪(えくぼ)。肩まで伸びた髪は弛くパーマがあてられていて、ふんわりとした雰囲気を強調しているようだ。
そんな由依は何故か茶田を気に入っているようで、こうして何処かで事件が起きる度に捜査本部が置かれる所轄へとついてくるのだ。
「それにしても、寒いですね」
由依は両手にはあ、と息を吹き掛けてから言った。
因みに、高尾山がパワースポットであるというのは由依が茶田に教えたことだった。
十時五分。
本当に此処は東京都なのかと疑いたくなる程の景色。遠目には山がある。そこは確か高尾山といい、パワースポットとして有名だったはず。そしてこの知識は勿論茶田のものではない。
「お疲れ様です」
下から聞こえる声に茶田は視線を動かした。都心と比べて数度気温が低いらしく、まだ真冬のように寒い。
「……お前の出番、ないはずだろ」
目線の先でにっこりと微笑む女に茶田は冷たく言い放った。すると女はやだ、と言って微かに焦茶色の眉を下げた。
「お願いしたんですよ、父親に。現場に出たい、て」
女――愛宕由依はそれがまるで当たり前のことかのように言う。茶田は自分が身を置く組織に再び疑問を感じた。
警視庁捜査一課殺人犯係。
そこが茶田が籍を置く場所だ。
「それで此処の刑事課に?」
茶田が尋ねると由依は笑顔のまま首を横に振った。あまりの寒さの為に、ふっくらとした頬とす、と伸びた鼻筋に赤みが差している。その顔はまだ十八歳くらいにしか見えないが、彼女が実は二十五歳だというのは知っている。
それは前月、由依が何度も茶田に何日で二十五歳になるので誕生日祝って下さい、としつこく言ってきたからだ。だがそれが何日だったかは由依の言う通りに行動しなかった茶田は既に忘れている。
「警視庁からの研修です」
という名目、というのをつけ忘れていると思ったが口には出さなかった。
愛宕本部長の娘、愛宕由依。
少し細めの瞳に笑うと出来る笑窪(えくぼ)。肩まで伸びた髪は弛くパーマがあてられていて、ふんわりとした雰囲気を強調しているようだ。
そんな由依は何故か茶田を気に入っているようで、こうして何処かで事件が起きる度に捜査本部が置かれる所轄へとついてくるのだ。
「それにしても、寒いですね」
由依は両手にはあ、と息を吹き掛けてから言った。
因みに、高尾山がパワースポットであるというのは由依が茶田に教えたことだった。